そらクリニック外苑前のブログ *こころの空もよう*南青山の予約制の心療内科 女性のためのメンタルクリニック 女医 女性専門

女医による女性のための心療内科・精神科そらクリニック外苑前のブログ。東京都港区南青山、青山一丁目、渋谷、新宿からも近いです。

幸せな記憶

最近年老いた母と話していて感じること。昔の話が多くなったなぁ。。。加齢の影響で短期記憶より昔の記憶の方が鮮明ってことだとは思いますが、昔の話をする母は心が穏やかな印象。昔でなくても最近のことより十数年前の話が多く、亡き父との思い出話など存命中は不平不満が多かったのに記憶の中での父はとっても良い夫になってます。オメデタイ。義理の母も同様で子供の頃の話をしょっちゅうします。いずれも楽しかったり懐かしかったりの素敵な記憶です。

最近のことは、自分が体調を崩したこと、友人が病気になったことなどあまり明るい話題がないし、何年もそう大きな変化がないから特に話題にすることもないのかもしれません。ご機嫌がいい時ほど、昔話でほっこり、の日々です。

先日、ある方と診察中に話をしていた時のこと。その方(Cさんとお呼びします)はいつもハンドメイドのお洋服を着て来られていて、お手製とは思えない完成度にいつも感心させられるのですが、洋裁は亡くなられたお母さまに教えていただいたとのこと。私は子供のころ、お母さまお手製のかわいいお洋服を着ている友達がうらやましかったのでそのことをお伝えました。

Cさんは「そうですか?子供のころは母のお手製のシンプルな服じゃなくてもっと可愛い服が着たかっだんですよ」とおっしゃいます。私は「大人になるとシンプルなデザインの方が素敵って思いますけど、確かに子供の頃は大きな衿だったりパフスリーブだったりヒラヒラした服に憧れましたよね」と応えると、「そういえば、母に衿はこうしてここにリボンとか注文つけて作ってもらったら、父がそれを見て『ベートーベンみたいだな』って言うんで可笑しくなって3人で笑ったことを思い出しました」と、Cさんは笑顔いっぱいでお話されました。

私もその光景を思い浮かべ、何だか可笑しくなって一緒に笑いました。Cさんのお父様はきっと私の父と年齢が近かったはずで、ちょっと気難しい父親の真面目なコメントが妙に可笑しい雰囲気がよくわかるのです。

私は、Cさんが愛されて育ったんだなと感じ、その幸せな記憶のおすそ分けをいただいた気分になりました。

数日後、この時のことを思い出すと私は何だか暖かな気持ちになると同時に涙がこぼれてしまうのです。。。。過ぎ去った遠い幸せの記憶。。。

Cさんはご両親を亡くされて深い悲しみの中にいらした時期もありました。でも幸せな記憶を想起して笑顔でいるCさんは、きっとこの先もあの記憶に支えられながら時を刻むのでしょう。

 私の母や義母も大切な人を失った時は悲嘆に暮れましたが、今は笑顔で懐かしい思い出と一緒に暮らしています。人を支えるものは何なのかしら、と考えた時、それは暖かく幸せな記憶なのかなと思いいたりました。

そんな記憶があることは生きる力になる、と信じます。ですから、できるだけ大切な人と良い時間を過ごしていきたい。そして、診察室でも暖かい気持ちになっていただければ、小さくてもお力添えできるのではないかしらと考えています。